門瑞初夜アンソロ発行しました

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            　　あ、と一声上がって、門脇が振り向けば微妙な顔をした瑞垣が立ち止まっていた。 　先行っといてや。 　どうしたん。雪雲が空を覆う寒くなるばかりの夕暮れ。母校のグラウンド脇の道ばたで、いつまでも立ち止まっていていられるほど、寒さに強い幼馴染みではないことは、門脇も、たまたま顔を出していた元チームメイトで今はライバルの友人達も知っている。 　何事かと門脇が一歩近づけば、溜息一つ白く吐いた瑞垣の左手が門脇の肩へ伸び、空いている右手は片方の靴を掴んで脱がせていた。 　何か石でも入ったか。 　やな。 　問う門脇に、靴の中や靴下を点検するために俯いたまま応える瑞垣は、更に片足を上げて更に不安定となる姿勢を回避するために靴を脱いだ靴下だけの足を、これまた断りも無く、門脇の革靴の上に乗せた。そして靴を振れば、原因となった小石がころりと落ちてアスファルトに跳ねる。 　それか。 　かな。 　主語のない短いやりとりだけで、再び門脇の肩を借りて瑞垣は靴を履く。そして足裏に違和感が残っていないか確認して、再び歩きだそうとした瑞垣は、立ち止まって待っていたと思われる友人や後輩達の面々に目をしばたかせた。 　…あれ、みんな優しいなあ、どしたんや。 　先に秀吾んちに行っとるかと思うたんに。本当に不思議がる声で門脇と並んで歩いてくる瑞垣は、門脇以外の人間が立ち止まっていた真の理由に気がつかない。 　あ、…まあ、そやったな。 　やっぱ、なんとなく置いていけんやろ。 　口々に何故か些かの照れも含めて応える友人達は、瑞垣を待っていた優しさという理由にすり替えて誤魔化す。俺らみんなおミズ好きやからなあ。明るく、軽く、白い呼気に流してしまう。 　ふうん…。 　彼らの口にする理由に流石に釈然としない瑞垣は、問いたげな視線でありがながら、以前のような追求はしない。代わりに、愛されちゃって大変ね、俺。と、隣の門脇を背後に置いて、目の前にいる後輩と友人の腕を取って組み、両手に花の姿勢で歩く。 　バレンタインが楽しみやなあ。 　近日到来する某チョコレート・メーカーが発端のニッポンのイベントを茶化した。 　んなこと言って、ほんまに俺らから貰ったらめっちゃ嫌がるくせに。 　決まってるやろ。 　つか、おミズでいいから義理チョコくれ。 　やっぱ貰いたいよなー。 　俺、瑞垣家なら香夏ちゃんに義理チョコでええから欲しいなー。 　なーおミズ、横流ししてくれや。 　それは兄として断固拒否というか、阻害するで、覚えとけ。 　…こわ。 　まるで中学時代もそのままに笑う、高校生になったチームメイトを、瑞垣の一歩後ろを歩く門脇が穏やかに笑む。 　中学の頃だったらきっと、肩貸してやったんに、とか、足貸してやったんに、だの、少しは文句も零すだろう門脇の変化に、冗談を交わす瑞垣以外の面々は台詞には出さずに驚く。先ほど起きた一連の出来事について、それは遠慮ではなく、落ち着きという名の日常なのか。これから門脇の家に集まって少し話していこうという予定なのだが。 　多分、今以上に、揉めていた事もあった幼馴染みに当てられそうだと言うことは確かな事実だった。 　そのつもりは欠片もないが、小石なんかじゃ邪魔も出来ない。 　やるなら原田巧級の隕石が、やはり必要なのだ。 　この二人には。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 /小石さえ邪魔にならない 　　 　

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おおふりあべはる・おだかの・あきはるの離れ

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